テニスセットという、少し不思議で美しい器の話
プレートとカップが一体になった、少し変わった形の器。
「テニスセット」あるいは「スナックセット」と呼ばれるこのスタイルを、初めて目にしたとき、多くの方が「どうしてわざわざこんな形をしているの?」と首を傾げるかもしれません。
けれど実は、この形にはきちんとした背景と、時代の空気が詰まっています。
テニスセットが登場したのは、1900年代初頭。
スポーツ観戦が社交の一部として楽しまれていた時代です。
特にイギリスでは、テニスは上流階級の嗜みであり、
試合そのものだけでなく、観戦の時間や、その場で交わされる会話までもが
ひとつの「優雅な社交の場」として大切にされていました。
『長時間の観戦の合間に、軽い飲み物や簡単なお菓子を楽しむ。』
そんなシーンにぴったりだったのが、このテニスセットです。
プレート部分に設けられた窪み――
日本では「糸底(糸じり)」と呼ばれるこの構造のおかげで、
カップは安定し、片手でも扱いやすい。
見た目の可愛らしさだけでなく、
「立っていても」「膝の上でも」「会話をしながらでも」
無理なく使えるよう、きちんと考えられたデザインなのです。
今の感覚で言えば、
“優雅なピクニック”や“ガーデンパーティー”のための器。
それも、使い捨てではなく、
長く愛され、何度も使われることを前提にした磁器で作られているところに、
当時の価値観がよく表れています。
現代のテーブルウェアの世界では、
テニスセットは決して主流ではありません。
だからこそ、今あらためて見ると、
この形はどこか新鮮で、少し遊び心があり、
そして何より「余裕のある時間」を思い出させてくれます。
忙しい毎日の中で、
コーヒーと小さなお菓子をのせるために、
あえてこの器を選ぶ。
それは少し遠回りで、でも確実に気分を上げてくれる選択なのかもしれません。
なぜ白磁のテニスセットは珍しいのか?
テニスセット自体が、もともと流通量の少ない器でしたが、
その中でも白磁を用いたものは、さらに数が限られていたとされています。
理由はとてもシンプルで、白磁は製作コストが高いためです。
白磁は土の精製度が高く、焼成の管理も非常に繊細。
少しの歪みや焼きムラが生じるだけでも、形状の複雑なテニスセットでは
すぐに不安定さが出てしまいます。
特に重要なのが、
・プレートとカップのバランス
・糸底(糸じり)の精度
・縁の立ち上がりの美しさ
こうした要素をすべて満たすには、高い技術力が求められ、
同時に歩留まりの低さも避けられません。
さらに白磁は、装飾の完成度がそのまま表に出る素材です。
色磁に比べて、絵付けや金彩の粗が隠せないため、
仕上がりの美しさに対する要求水準も自然と高くなります。
その結果、
「もともとニッチな存在であるテニスセット」×「コストの高い白磁」
という組み合わせは、必然的に数が少なくなっていったのです。
だからこそ白磁のテニスセットは、
単に“珍しい”というだけでなく、
技術と贅沢さの結晶のような存在と言えるでしょう。
ヴィンテージ作品の中でも、特に希少性が高くなりがちな理由が、ここにあります。
そして現在でも、Herend では、
テニスセットを現行品として製作しています。
もともとの需要が決して多くないため、
店頭に在庫として並ぶことは稀ですが、
それでも 高度な絵付けを施したテニスセットを、現行品として作り続けているメーカーは非常に限られており、Herend はその数少ない存在のひとつ です。
だからこそ今、テニスセットをご案内したいと思っています。
かつては特別な時間のために生まれたこの器を、ぜひ手に取っていただき、
現代の暮らしの中でも、気負わず楽しんでいただけたら。
時代や使われ方は変わっても、
「少し余裕のある時間」を楽しむための器であることに、変わりはありません。
今回ご紹介しているテニスセットは、
ゆらりとしたリボンの表情が美しい エデンシリーズ。
久しぶりのご案内となる、上品で落ち着いた藤色です。
トレイ部分は、縁にあしらわれた蔦模様の美しさを引き立てるため、あえて装飾を抑えたシンプルバージョンに。
一方、カップはエデンの世界観を存分にお楽しみいただけるよう、ぐるりと一周フルデザインでご用意しております。
実はこのトレイをシンプル仕様にすることで、縁の華やかさを際立たせるだけでなく、製作工程においては大きなコスト調整にもつながっています。
そうした工夫もあり、こちらのテニスセットは今月のマンスリースペシャルとしてご案内中。気になる方は、ぜひウェブショップものぞいてみてください。
EDEN テニスセットはこちらから
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